#1カッパ 〜出発〜

 

引越しの後片付けもようやく一息ついてきたかなっていうその日の朝。ボク達はワカバちゃんに呼ばれて、彼女の仕事部屋に整列していた。大きなモニターは、所在なさげに館の全貌を映し出し、その前にドカンと座った彼女を、独特な淡い光で包み込んでいる。

「任務だ」

デスクの上に肘をのせ、かわいらしい白い手で顎を支えながら、文字通り大きい口を開けたワカバちゃんからは威厳のようなものを感じた。

越してから初めての任務。ボク達4人(あれ?も一人いたような・・・)に緊張が走る。隣に座っているキリンからは、ごくりと唾を飲む声が聞こえた。

「ある洞窟の奥に、特殊な鉱石がある。それを採ってきてほしい。委細はMから説明する」

ごくり。今度はヒヨコが息を呑んだ。

どこから現れたのか、いつの間にかワカバちゃんの横にはジャパニーズキモノ姿の女の子が立っている。Mこと、ウィッカちゃんだ。

「それじゃ皆、よく聞いてね」

彼女はボク達を見回すと、シューの所で視線を固定して話し始めた。

話の内容は、洞窟の場所、石の特徴などについて。どうやらその石は、キラキラ光るきれいなものらしい。

ボク達は初めての任務に不安と、好奇心を抱きながら館を後にした。

その時になってようやく、プラントもいたことに気が付いたんだけど・・・。

 

 

#2キリン 〜受難〜

 

 怪しい!見るからに怪しすぎる洞窟だぜ!

 森の中にポッカリ開いた空洞の周りには、見た事もない毒々しい色の草が生い茂っている。

風のせいだろうか、ゴォーっと獣の鳴き声のようなものが聞こえる気がした。

 「さあ、勇気を出して中に入ってみよう!」

 ヒヨコが例の、爽やかすぎる笑顔で皆を見回した。勇気を出してって事は、こいつも少なからず恐怖心はあるようだ。

「キリンからどうぞ」

 カッパがオレの背中をポンと叩き、いたずら坊主のような笑みを浮かべている。この野郎!オレだって怖いんだ!!

 だけどリーダーの座を狙う身としては、カッコいい所を見せておかなきゃいけないな。

「よし!行くぞ!!」

恐る恐る一歩を踏み出した。

洞窟の中は暗く湿っており、時折ピチャンピチャンと水の滴る音が響いている。

なに、たいした事はない。ただのトンネルだ。そう思う事にして、先頭を歩く。

すると、奥に行くにつれて微かに明かりが灯っている事に気付いた。

それは地面から生えているかのような不気味なランプだった。ぼんやりとオレンジ色の明かりを灯しているが、目を凝らして見ると、人の顔のように映る。

あまり凝視するのはやめておこう・・・。

首を振って気持ちを落ち着かせ、再び歩み始めたが、足の裏から伝わってくる奇妙な違和感に気付いた。

ごつごつした岩がひしめき合う洞窟・・・なハズだが、オレが踏んだ所だけやたら柔らかい。おかしいと思ったが、時すでに遅く、カチッという機械的な音と同時に地面が消えた。

落ちる!必死で何かを掴む。それを辿ってよじ登ると、シューの手だった事がわかった。

「サンキュ!助かったぜ!」

肩を軽く叩こうとしたが、その手はむなしく空を切った。シューが一歩、後退りをしたからだ。

その理由はすぐに分かった。オレが立っている両側の壁から、猛烈な勢いで無数の矢が飛んできたのだ!

日頃のダンスの成果もあって、体をくねらせ間一髪でなんとかかわした(一本帽子を貫通した)が、一息つくのはまだ早い。向こうから、何かが近づいてくる気配を感じた。

低いうなり声が洞窟内をこだまする。

闇の中からすぅっと現れたのは、血走った目のバカでかいライオンだった。

 

 

#3ヒヨコ 〜作戦〜

 

 ライオンさん・・・目が充血している。寝不足みたいだ。

矢を避けるときは軽快な動きをしていたキリンが腰を抜かしてへたり込んでいるが、寝不足のライオンなど動きが鈍いはず。寝かしつけてしまえばいいのだ。

僕はキリンの肩をポンッと叩いて前に進み出ると、ブラームスの子守唄を口ずさんだ。

思ったとおり。ライオンはその場にうずくまると、大きな欠伸をして、傍に生えていた気味の悪い植物にかぶりついたりして、眠りの体制に入った。その様子からすると、体は大きくてもまだ乳離れしきっていない様子だ。近くに母親がいるかもしれない。

ほんのちょっとだけ警戒の必要性を意識しつつ仲間を振り返ると、キリンは満身創痍で壁に掴まりながら立ち(おそらく壁に手をついたとき、新たな罠の攻撃を受けたのだろう)、カッパは熟睡してシューにお姫様抱っこされていた。

「よく寝てるね。このライオンくんの隣に寝かせてあげたら暖かいんじゃない?」

起こすのがかわいそうで皆に提案したら、何故かシューに反対されてしまった。

「カッパは起きたら泣くと思うが・・・」

「そう?」

そんなわけで、カッパが目覚めるまで一休み。その隙に僕は作戦を立てた。

「先頭はキリン。思わぬ罠が出てきても、その素晴らしい身のこなしで回避してくれ。シューは2番目で、キリンの影から罠と鉱石の在処を調査することに集中するんだ。カッパは最後尾で背後の監視だ。僕は子守唄で獣を回避する!」

今までの状況から割り出した完璧な作戦。とてもリーダーらしいよね、僕。

 

 

#4シュー 〜発見〜

 

 ヒヨコの指示で隊列を組んだ俺たちは再び歩き出した。

 キリンが前にいるおかげで、ひそかにMのアドバイスを受けながら訓練した必殺技『ものかげサーチ』が発動しやすい。とりわけ筋肉質のキリンの影から洞窟内を覗くと、僅かな違和感や変化を見つけやすい。

例えば今、キリンの左の上腕二頭筋と左の上腕二頭筋を目安に眺めると、30メートル先の地点がやや右に傾いているのが分かる。これが『ものかげサーチ』の技その1、『ものかげ計測法』だ。

さらに注意深く見てみると、左の壁に穴があいていて、中の大きな石が、天井からぶら下がっている蔦によって抑えられている。蔦はそのまま地面を這っていて、躓くと蔦がはずれ、石が転がってくる仕掛けになっていた。

そんな要領で仕掛けを見つけ、皆に伝えながら先に進んでいく。

そしてとうとう、洞窟の最奥に辿り着いた。

「肝心の石はどこだーっ!!!」

到着するなりカッパが叫んだ。

ガランとしていて一見何もないように見えるが、無敵のものかげサーチがある俺にはいとも簡単に見つけることが出来た。

「上だよ、上。」

洞窟の天井一面に、七色にキラキラと輝く鉱石が、氷柱のように垂れ下がり、まるで鍾乳洞のようだった。

 

 

#5プラント 〜任務完了〜

 

 

ボクちゃんが見届ける中、背の高いシューの肩を足場にして、同じく背の高いカッパが鉱石に手を伸ばした。

みんな気付いてた?ボクちゃんが道中所々で顔を光らせて暗い洞窟内を照らしてたクサクサクサ・・・・・・。キリンが避けた矢が刺さったり、ライオンがかぶりついてきて顔がベシャベシャになったりしたけど、任務のために一生懸命頑張ったクサ!

「ちぇっ!暗いし、石がはずれないし・・・誰かナイフとか持ってない?」

カッパがみんなに問いかける。

待ってました!ここはボクちゃんに任せるクサ!

素早く天井に移動し、あたりをぼぅっと照らすと、右の葉っぱで左の葉っぱを引っこ抜き、万遍なくコナを振りかけてからカッパに差し出した。

「サンキュ!」

そう言うとカッパは、コナの力で硬化した葉っぱを器用に使って鉱石の周りを掘り始めた。そして指定された量をためるべく、下で待ち受けるキリンの帽子の中に鉱石を放り込んでいく。

「これでOKだ!」

帽子がほぼいっぱいになると、ヒヨコがカッパに声をかけた。

「任務完了だね。予定より早く片付いたよ!」

カッパがシューの肩から降りながら嬉しそうに言った。

「そうだよ。時間があるから今からかくれんぼしようクサ!」

夕方までに帰ればいい任務だ。今はまだお昼過ぎ。

かくれんぼにうってつけの洞窟だもの。このまま帰るなんてもったいないよ!

「じゃあオニは探し物が得意なシューね!」

そう言うと、ボクちゃんは来た道を戻って身を潜めたのだった。

 

「なんかさぁ・・・。さっき誰かが『かくれんぼしよう』とかしゃべってなかった?」

「いや、俺には何も聞こえなかったが」

「おやつに間に合うように帰ろうぜ!」

「さっき僕が指示した隊列をもう一度組もう」

 

日が暮れても誰もボクちゃんを探しに来なかった。念のため洞窟内を一回りしたけど、人っ子一人見当たらない。

しょんぼりしながら館に戻るとダイニングからおいしそうなローストビーフの匂いがした。思わず嬉しくなって、人間の姿に戻ると走っていってダイニングの扉を開いた。

そこには、珍しくダイニングで食事をしているワカバの姿があった。

「夕食に11分2392遅刻。オマエは今日の夕食は抜きだ」

ガーン・・・!!!

ボクちゃん今日結構活躍したよね?

こんなのってないクサクサクサ・・・・・・。

 

 

 

おしまい

任務000:洞窟探索大作戦