その日アタシは、お城での公務が退屈で、ちょっと暴れてから中庭に抜け出していた。パパである、妖精の国の現国王として名高いガラム・マサラも、娘には甘く、ちょっと駄々をこねると困った顔をして見守るばかりである。
「つまんないの・・・」
中庭の中央に位置する泉のほとりに腰かけて、ふぅっとため息をつくと、水面がかすかに揺れた。ゆらゆら揺れる水面を覗きこめば、自分の顔が歪んで別人のようにも見える。
こんな他愛のない現象でも、ここ数日退屈な式典続きだったアタシには、十分魅力的な娯楽に感じられた。はじめて水面を見る子どもみたいに嬉々として、今度はもう少し多くの空気を吸い込んでから、反対側のほとりまでそっと送り込むように息を吐いた。すると今度は泉全体が大きく揺れて、確実にアタシとは別人の顔を映し出したのだった。
「!!!!!!」
水面全体に映し出されたのは、柔らかい微笑を湛えた青年だった。その天使のような微笑は、泉全体からマイナスイオンを発生させるほどの強力なパワーを持っていた。
「しゅ・・・しゅてきぃ〜」
アタシが王子様を見つけた瞬間だった。
それから数年。
王子様を探してお城を飛び出し、人間界を旅して、犬の姿をした悪魔(現大ボス)に遭遇したり、色んなことがあった。
そして今日、とうとう念願のプリンスチャーミングと対面できるのだ。
「ワカバが『お前の王子様に会わせてやる』って言ってから、いったいどれだけかかったかしら」
秘書室のデスクで頬杖をつきながら、ぼんやりと思い起こす。本当に長い道のりだった。
やがて、ドアの向こうから軽やかな足音がして、控えめなノックの後、ドアは開かれた。部屋中にミントの香りが広がった。
「あなたがAの秘書のマネー・エン?」
彼が質問を言い終えないうちに、アタシはプリンスチャーミングに思いっきり抱きついたのだった。
おしまい。