心地良い日差しで目が覚めた。休日に相応しい目覚めだ。

自慢じゃないが、あたしは妖精なので、地下にあるこの自室で自然な太陽光線を浴びるのだって朝飯前だ。(実際まだ食べてないし。)眠りに着く前、目覚ましをセットするかわりにちょっとステッキを振るだけだもの。

ベットから起き上がり、軽く伸びをしながら考える。

今日は休日。Aがお休みなのだから、秘書室でニコニコ座っている必要はない。

「何して過ごそうかな・・・」

呟いてみたものの、休日の過ごし方など既に決まっている。

「ヒヨコ♪」

まずはヒヨコを起こしてこなくっちゃ。

時計を見れば、ただいま午前6時ちょっと前。当然彼はまだ寝ているはずだ。

ルンルン気分でステッキを一振りすると、たちまちベットは整えられ、服もいつもの『アナベル専用』(○ャア専用!?)に着替え完了だ。

ステッキをもう一振りしてフワリと宙に浮かぶと、あたしはそのまま天井をすり抜けた。そしてたちまち色んなものを潜り抜けて、あっという間にヒヨコのお部屋に到着した。

彼はふとんに包まって、天使の微笑を浮かべながら寝息を立てている。

そのままヒヨコを観賞すること数分。だいぶ日が高くなってきたので、そろそろ起こさないと「ヒヨコと過ごすラブラブ休日プラン」が台無しになってしまう。

名残惜しい気持ちを押し込めて、あたしはステッキを振った。

「ムツゴロウ☆ハレーション・・・」

いつもの呪文を唱えると、ステッキからハート型のシャボンが飛び出して広がって、たちまちヒヨコのベットを取り囲む。

準備完了。あとは発動の合図のみ。

 

 

 

僕はものすごい寒気がして夢から覚めた。

意識ははっきりしているものの、なんだか怖くてすぐに目が開けられない。

平日はいつも快適に目が覚めるのに、ここに引っ越してきてからなぜか休日の朝はこの悪寒に見舞われるので、嬉しいはずの休日がここのところ憂鬱で仕方がない。

どうにかならないかとみんなに相談しまくって、ようやくまともに取り合ってくれたウィッカの助言で、昨日の夜眠りにつく前に彼女の部屋の神棚にちゃんとお祈りしたのに・・・。あの神棚はウィッカにしかご利益がないのか?

落胆したせいか、もうどうにでもなれ、と薄っすら目を開けた瞬間、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

Fly out!!!

アイツか!!!

慌てて目を開けたのと同時に、どうやら寒気の元凶になっていたらしいハート型のシャボン玉が一斉に割れて、中から何か小さな生き物が姿を現した。

「か・・・囲まれた!!!」

小さな生き物は、予想通りの声の主、アナベル・・・のミニチュアサイズだった。それもなんかたくさんいる!

「えええええぇぇぇぇっ!?」

驚いたのも束の間、ミニアナベルは一斉に僕に向かって突進してきて、もう、ただ放心するしかなくなった。

「「「「スリスリスリ・・・。う〜ん、しあわせ〜♪」」」」

「うわぁぁぁぁ!!!」

こっちは気持ちが悪いです!!!

 

 

 

「眠ってるヒヨコもステキだけど、やっぱり起きてて動いてる方がいいわね〜」

ヒヨコは無下に振り払うわけにもいかず、オタオタしている。

そりゃそうだ。あたしは曲りなりにも彼の上司Aの秘書ですからねっ。その分身たちを振り払うなんてことができるはずない。

「アナーーーっ!やめてくれーーーっ!!!」

ヒヨコがそう叫んだので、サプライズ目覚ましはここらへんで終了することにした。オタオタするヒヨコは十分堪能できたし。

ステッキを一振りすると、ミニチュア・アナベルはスゥっと透明になって、シャボン玉みたいにパンッとはじけて消えた。ヒヨコはそのままベットに崩れ落ちる。

天井のあたりをフワフワしていたあたしは、そっとベットの脇に舞い降りて笑顔で言った。

「おはよう♪今日もステキなホリデーにしようねっ」

ヒヨコは青ざめた顔であたしを見上げる。なんでかな?

ニコニコしたままで待つことしばし。ヒヨコは大きくため息をついてから笑顔で答えてくれた。

「おはよう。今日も早いんだね」

きゅーーーん!!!

やっぱりヒヨコ大好きっ!

思わず飛びついてピョンピョン飛び跳ねていると、騒ぎを聞きつけて同じ階の住人たちがドアの隙間から顔を出した。

「ヒヨコ〜?」

まず声を発したのは、黄色い頭の兄弟の兄のほう、カッパだ。弟のキャンディーも彼の後ろから顔を覗かせている。2人揃って目が赤いのは、昨晩から徹夜でゲーム大会でもしていたのだろう。休日によくあることだ。

「大丈夫。何でもないよ」

さわやかに笑顔で返事をするヒヨコ。やっぱり朝はこう、爽やかでなくっちゃ。徹夜で赤い目なんて鬱陶しい。

「*?>@%&#」

なんだかよくわからない奇声を発しながら入ってきたのは、爽やかな朝にふさわしくないサングラス姿のキリンだ。どうせまた草でも吸ってたのだろう。休日だからって羽目外しすぎ。明日Aに報告しなくっちゃ。

「ありがとう。心配してくれて」

こんなやつにも寛大な心で返事をするヒヨコ。この状態のキリンの言葉を解読できるのは彼しかいない。やっぱりステキ。

「せっかくの休日だから、訓練はほどほどにね」

???誰に話しかけてんの・・・って、シュー!!!ドアの陰から覗いてるの、よく気がついたね、ヒヨコ。マーベラス!!!

 

 

とりあえず騒ぎが収まって、みんなが部屋に帰っていき、着替えを手伝うとか言い張るアナも部屋から追い出して一息つく。

ああ・・・。今日もアナと過ごして休日が終わるのかな・・・。

ほんのちょっと寂しい気持ちになったが、あんまり時間がかかっているとアナが勝手に入ってきてしまう。

慌てて着替えて部屋の外に出ようとすると、突然足に何かが絡み付いて、前に進めなくなった。

「ヒヨコ・・・」

消え入りそうな声に恐る恐る振り返ると、ベットの下から葉っぱが一枚伸びていて、僕の足に絡み付いていたのだ。

なんだこれーーーっ!?

動いてるってことは、本体がベッドの下にいるってこと?いつから?

てか、これってもしかして・・・。

「おのれプラント!」

ベットの下にいる同僚に声をかけようと思ったが、勢いよくドアを開けて入ってきたアナに遮られた。

「あたしのヒヨコの部屋に勝手に入らないでよ、キーッ!」

「だって・・・だって心配だったんだもん」

「もういいでしょ。さっさと出てって!」

「でも、休日って何したらいいかわからないから遊んでもらおうと思って・・・」

「ダメ!あんたがいたら、『ヒヨコと過ごすラブラブ休日プラン』が台無しになるじゃない」

「いや、そんな休日過ごしたくないし・・・」

アナとプラントは仲がいいなぁ。僕の話全然聞いてくれない・・・。

「さあさあ、出てって!」

アナはプラントに向かってステッキをかざすと、勢いよく振った。次々と飛び出してくるシャボン玉は、僕が朝見たハート型ではなく、ミサイルの形をしている。案の定、プラントに当たっては、バチン、バチン、とすごい音を立て割れていく。割れるたびに紫色の不気味な煙が出てくるんだけど、これはなんだ?

「イタタ、イタタタタタ。カオハヤメテ・・・」

プラントは、2枚ある葉っぱで顔を覆って防御の体制だ。

しかしプラントの顔・・・いっそのことミサイル型シャボン玉を受けてあの紫の煙を浴びてみたらどうだろう。

そんなことを考えながら、のんびり椅子に腰掛けて、楽しそうに戯れる2人を眺めているうちに、久々の休日は終了したのだった。

その夜の夢は、シャボン玉に攻撃される夢だった。ピンクのハート型のシャボン玉が僕めがけて飛んできて、ぶつかると同時にはじけてピンクを煙が噴き出してくるのだ。正夢?夢は願望の表れ?

A・・・。しばらく休日はいりません!!!

 

 

おしまい

シャボン玉ホリデー