セントラルで反乱が勃発した直後、サウスのリーダーに手を引かれ男の子の格好をした小さな女の子が我が家へやって来た。
俺は彼女を引き取るのは反対だった。この少女は帝王・ゴッドファザーの愛娘。万が一反乱を起こしたウェストとイーストに知れれば、俺たちイーストファミリーは解散だけでは済まされない。だけど大喜びするラスターに水を差すことは俺には出来なかった。
「名前、なんていうんだ?」
あっ!ちくしょう!!ラスターのヤツ、デレデレじゃん!いつもは弟的なポジションのラスターは、妹が出来たみたいで嬉しいのかもしれない。
しかし、少女を連れてきたサウスの姐御(サウスのリーダーは皆からこう呼ばれている。)の話では、この子は今までの記憶が失われているらしい。自分の名前も分からない程だと言っていた。無理もない。こんな小さな子が反乱で恐ろしい目に合ったのだから・・・
「名前ないの?じゃあオレ、キャプって呼ぶぜ?」
どこからそんな名前が出てくるんだ?女の子に『キャプ』はないだろう。そういえば名前が分からないアフロを『アフロ』と命名したのもラスターだった。ネーミングセンスゼロ。たぶんこの子も「いや」と言うだろう。
「そうか!気に入ったか!よ〜し、今日から君はキャプだ!!」
マジかよ?!
どうやらこの少女、思考回路がラスターと似ているらしい。二人はすぐに打ち解けた。まあ逆に言えばラスターの精神年齢が5歳児(たぶん5歳だろう)並みだという事か。
「お?なんだソレ?手紙か?」
キャプ(さっそく呼んでみる)がポケットからおもむろに紙切れを取り出し、読むように促した。ラスターはそれを受け取り、ザっと目を通しただけですぐに俺によこす。
「意味わかんねー!サミー、読んで。」
「え・・・?もしかしてラスター、字が読めないのか?」
そんなワケあるか!と怒り出すラスターを余所に、紙切れに視線を移す。そこに書かれていたのは確かに、意味の分からない事だった。
〜取扱説明書〜
1.
この少女は生ものです。冷蔵庫の保管は極力避けて下さい。
2.
決して水辺に近づけてはいけません。しかしシャワーは毎日浴びさせる事。
3.
独りで室内などの狭い場所で遊ばせる事は大変危険ですので避けて下さい。どうなっても知りません。
4.
出来るだけ少年の格好をさせる事。また、本人が着たい服以外は与えないようにして下さい。資源は大切に。
以上の項目をよく守り、用法用量をお確かめになってご利用下さい。 G.K
意味不明。俺は軽く混乱した。だが、ラスターはそんな事もうどうでもいいとでも言うようにキャプを連れて遊びに行ってしまった。
ちなみにこの取扱説明書の3番目の項目はすぐに理解する事になる。
キャプに留守番をさせ、皆で出かけて帰宅すると家の中の家具という家具がすべて破壊されていた。巨大な冷蔵庫は真っ二つに割れ、俺のお気に入りだったソファーは見る影もない。そして所々、壁に大きな穴が開いていた。
何があったのかと問い質すと、返ってきたのはこの一言。
「一人で遊んでた。」
なんだかよく分からないが、取扱説明書の項目はしかっり守ろうと心に誓った。