道草署のデカ長ヒヨコは、今朝もピー吉とおしゃべりをしていた。(「だからピー吉じゃなくてピャールズだっての!」Byピー吉)
「ほぅら、ピー吉。スープがおいしいじょぅ♪キミも飲みましゅか〜?」
「ピーピーピーピー!ピー!!ピーピピピー?(ピャ・ア・ル・ズ!何度も言わせるなよ!!んで、それ本当においしいのか?)
「お口開けてごらん。スプーンで飲ませてあげましゅよ〜」
「ピー・・・」
素直に口を開けるピー吉。しかし、スープを飲み込んだ瞬間・・・
「ピャァァァァァ!!!(しょっぱーっ!!!)
ピー吉は悲鳴をあげた。
「ピー!ピー!ピー!ピーピー、ピピピピー!!!(なんてことしてくれるんだ!しょっぱいじゃないかよ!減塩のやつをよこせよ!俺高血圧・・・てか人間のは塩辛すぎるんだよ!!!)」
「ゴメンゴメン。やっぱり人間の食べ物は、動物には味が濃すぎるんでしゅね!」
ようやく会話がかみ合ったようにみえるが、相変わらず心は通っていない。
「ピピーピ!(俺で実験するんじゃねー!)」
全て吐き出したピー吉は、ようやく一息つく・・・はずだった。しかし、彼には更なる悲劇が待ち受けていた。
「ピーピー、ピーピー!!!(アンタたち、いい加減にしなさいよー!!!)」
ピー吉の彼女のピレーヌは、このしょうもない毎日のやり取りに、とうとう堪忍袋の緒が切れたのだ。彼女は右の羽根を広げると、すばやくピー吉目指してその羽を振るった。
「ピャーッ!!!」
ピー吉は太陽めがけて飛んでいった。ピレーヌの平手ならぬ平羽打ちの威力はすごかった。
「う〜ん・・・大ホームランだ」
のんびりとピー吉が飛んでいった方向を眺めるヒヨコ。
今日もいい天気である。
「デカ長!今日のスープは何ッスか?」
朝の挨拶もそこそこにキリンが仮眠室から戻ってきた。彼は今日も夜勤だったのだ。いや、夜に事件が起きるわけではないので、夜勤というよりも宿泊である。もしかすると、彼には家がないのかもしれない。所内で生活すれば、交通費もかからず実に経済的だ。
「今日はキノコのクリームスープだよ。いやぁ、最近のインスタント食品は素晴らしい!昔は具のない粉末のマツタケスープとか、ワカメしか入ってない中華スープとか、油揚げしか入ってない味噌スープとかブツブツブツブツ・・・・」
珍しく愚痴を言い始めたデカ長。これが今日一日振り回される大事件の前触れだということに、キリンはまだ気が付いていなかった。
2人がスープを飲み終える頃には、ヤマさんことカッパが新しい尋問手帳に色あせた青い尋問手帳からメモを写し取りながら出勤した。今度の手帳は真っ赤である。
「デカ長。今日は尋問の予定がないので尋問シミュレーションでトレーニングしてこようと思うのですが」
「ああ、行ってくるといいよ。全くキミはがんばりやさんだなぁ!」
デカ長はカッパが8割がた別のゲームをして過ごしていることを知らない。そもそもカッパの尋問術は天性の才能なので、人間相手のロールプレイならまだしも、コンピュータのシミュレーションなど無意味なのだということに、いい加減気付いてもらいたい感じである。
今日も平和そうなので朝のミーティングもそこそこに、ヒヨコはスズメの巣箱作り、キリンはレコードの手入れ、カッパがゲームの堪能しようとそれぞれに考えをめぐらせていたとき、道草署刑事課のエースであるシューが、珍しく息を切らせながら室内に飛び込んできた。
「デカ長!大変です!!!」
「どうしたんだ、シュー。キミらしくもない。取り乱したりして」
デカ長こそ取り乱すことが全くなさそうだ。
「今、署長のところに本庁2課の刑事が来てるんです!」
「何だって!?」
説明しよう。本庁とは、帝国警察の大元締めで、2課とは政治家や官僚の不正を扱う部署である。そしてこの本庁の署長と道草署の署長は大変仲が悪い。というのも、警察庁長官と道草署の署長が大変懇意であり、本庁を差し置いて所轄である道草署が現在帝国警察の中心となりつつあるからだ。実際、長官は是非本庁の指揮を道草署の署長に任せたいと言っている。
もっとも、道草署の署長は、「あんまり役職が上がりすぎると自由に動けないからね」という理由で断り続けいてるのだが。
「・・・それで?彼らは何と?」
「何でも、昨日われわれが扱った事件の重要参考人であるプラント(2番)は、アビ教官の不正の証拠そのものであり、逮捕のタイミングを窺うために泳がせていたのに今回の事件で台無しになった、と難癖をつけてきているのです」
アビ教官とは、町外れの丘のアビ屋敷に住んでいる警察学校の名教官である。愛称の通り生徒たちを阿鼻叫喚させる厳しさで知られているが、的確な指導に卒業後感謝する警察官も多い。
「不正って・・・どんな?」
特に阿鼻叫喚になついていたカッパが、青ざめながら尋ねる。
「詳しくはよくわからないのですが・・・署長室の天井裏に忍び込んでチラッと聞いたところによると、あのプラントという生物は、要駆逐外来種らしいのです。基本的には害はなく、他の種との共存は可能なのですが、ひとたび白い粉を撒き始めると様々なトラブルが発生するという・・・」
「アレが・・・要駆逐外来種!!!」
キリンは無意味に机に上がって、無意味に驚いたポーズをとっている。
「とにかくデカ長、署長室に行って来て下さい!」
皆にせかされて、デカ長は署長室に向かった。
デカ長は、妙にスーツをピッチリ着こなした2人の男を従えて戻ってきた。
「紹介しよう。本庁2課の、ナンキョク課長とダンシャク君だ。この2人に協力しろという、署長からのお達しだ」
「ナンキョクイチゴウです。あまり略されるのは好みませんのでキチッと呼んでいただきますようお願いいたします」
すかさずナンキョク(そんな長い名前で呼べるか!)が言葉を挟んだ。しきりにヒヨコを睨んでいる。
「俺はダンシャクだ。おっ?キリン!久しぶりじゃないか!!!」
ダンシャクは、まだ机の上に立ったままだったキリンのもとに駆け寄った。
「ダンシャク!元気だったか?」
手を握り合うふたり。彼らは警察学校の同期で、卒業してからもたびたび一緒に飲んだり踊ったりしていた。
「アビ教官が不正って・・・ホントか?」
「俺も信じられないんだが・・・署長がもう何年も前から主張していて、俺たちもしょうがなく・・・」
「ダンシャク!余計なことは言うんじゃない」
課長のお叱りに、ダンシャクは慌てて口をつぐむ。
「君たちが昨日重要参考人として事情聴取した生物だがな。アレは要駆逐外来種だった。そしてアビ屋敷には複数のあの生物が出入りしていたことが確認されている。しかもあのプラント(2番)は家政婦として雇われていたとか。帝国の治安に関わる人物が、あろうことか要駆逐外来種を飼っているとは・・・許されないぞ!!!」
ナンキョクは、ジメジメとねちっこく説明した。
「プラント(2番)は、聴取が終ってこの道草署を出てから姿を消した。これはもう、直接アビ教官を呼び出すしかない。至急召還しろ。ここで尋問してやる」
ずいぶん高圧的な課長だ。道草署のデカ長とは大違いである。
かくして、道草署の裏手にある警察学校から、アビ教官ことキャプが到着した。
「不正って、なんのこと?」
キャプは通常の尋問室ではなく、署長室の隣の応接室に迎えられた。
「しらばっくれるな!あの気味の悪い外来種のことだ!!!」
落ち着き払っているキャプに対して、ナンキョクが声を荒げる。
ドアのそばに控えていたキリンとダンシャクが思わず目を瞑った。
「まあまあまあ、ナンキョク課長。ここは・・・」
尋問のヤマさんと称される自負もあり、カッパが割って入るが、ナンキョク課長はそれを許さない。
「キミらは私の言うとおりに協力してさえいればいいんだ!」
カッパを突っぱねたナンキョクに、はじめてキャプは表情を変えた。ナンキョクをキッと睨む。
「あんたねぇ・・・。アタシにケンカ売ったら、後がコワイよ?」
こんな調子で、本題に入るまでに約10分。そしていい加減に飽きてきたキャプがあっさり言った。
「プラント2号は実験用だけど?増え続ける外来種の有効活用のための実験。コナの生成は出来ないように処理してあるし、そもそも王様直属の研究機関からの依頼で、家でモニターしてるんだけど。プラント(2番)だけど、今は研究所に戻ってるよ。警察学校出る前に連絡しておいたから、後で研究機関の責任者から証拠書類が届くはず」
人望が厚いだけのことはある。仕事も仕事以外も手際は完璧だった。
いつの間にか外を眺めていたデカ長も、耳だけはしっかりそばだてていたらしい。ほんのちょっとだけ、口元をニヤリとほころばせた。
「そんじゃ、あたし仕事あるから」
「あ・・・ご協力ありがとうございました・・・」
呆然とするナンキョクは、威厳のあるキャプの後姿を見送るしかなかった。
そしてキリン、カッパ、ダンシャクは跳び上がって喜び、ヒヨコとシューはかおを見合わせ微笑みあったのだった。
こうして、道草署前代未聞の危機は乗り越えられた。
ありがとう、ヒヨコ!やったね、キリン!かわいいぞ、カッパ!がんばれ、シュー。
彼らの活躍は、これからも続くはず・・・。
・・・・・・。
あたしはまた汗をびっしょりかいて目が覚めた。
「またしても・・・なんなんだ、コレは!」
地下帝国と地上の世界が混ざった変な設定に眩暈をおぼえる。
こんな夢を見た日はろくなことがない。
これから起こるであろう厄介な出来事に備えて、あたしはもう一眠りすることにした。
END?