某月某日、快晴。

地下帝国首都アビ特別区道草署の刑事課長ヒヨコは、今朝もインスタントのコーンスープを飲みながら、窓の外の小鳥たちと赤ちゃん言葉でおしゃべりしていた。

「今日も美人さんでしゅね〜」

「ピピピィ・・ピピ!(俺モテないの気にしてるのに・・・失礼なヤツだな!)」

「お隣は恋人かな?かわいいでしゅね!」

「ピ・・・(あ、ありがとう・・・。)」

「ピ!!ピーピピ、ピーピ!(おい!!やっと出来たカノジョなんだぞ。手出すなよ!)」

いつも通り、ちっとも心は通わない。

「人生って素晴らしいな、ピー吉!」

「「ピピー!ピー!!!(俺人間じゃねー!つか名前ちげーよ!!!)」

こんな感じでいつもイライラさせられるくせに、なぜかこの貴族育ちでピャールズという高級感漂う名前があるにもかかわらず「ピー吉」などというカエルに間違えられそうな安っぽい名前で彼を呼ぶデカ長、毎朝会いに来ずにはいられなかった。

きっと何かピー吉・・・ではなくピャールズをはじめとする動物を引き付ける何かを、このデカ長は持っているに違いない。

 彼女のピレーヌがそろそろこの1人と1羽のやりとりに愛想をつかし始めたことに気付くことなく、いつもの一時を終えて、ピャールズは飛び去っていった。

 丁度そのとき、元気よく若手熱血刑事のキリンが、仮眠を終えて戻ってきた。

「おはよーッス、デカ長!今日も早いッスね!!」

「君こそ、夜勤お疲れ様だ。さぁ、一緒にコーンスープを飲みたまえ!」

2人は仲良くデカ長のデスクに並んで腰掛け、朝の爽やかな一時を過ごす。

そうしているうちに、ヤマさんことカッパが今日の尋問手帳を片手に出勤し、最後に道草署のエースであるシューが、ワカバ署長との茶のみ捜査会議を終え、鑑識から大量に捜査資料を預かりつつやって来て、メンバーが揃う。

毎日繰り返されている光景だ。

道草署刑事課のメンバーは、近くに警察署が乱立していることもあり、出番は少ない。小さな事件はそれなりに発生するのだが、大体の場合、シューが調査し、キリンが確保、ヤマさんことカッパが自白を勝ち取り、見事な連係プレーでたちどころに事件を処理してしまう。

 

今日も平和にデスクワークをこなし、そろそろおやつの時間にさしかかろうとしていたとき、事件の第一報が入った。

ジリリリリリリ・・・。

全体的にレトロな造りの建物だが、電話も黒電話で、呼び出し音も昭和を感じさせる。

「おう、デカ長だ。なに?事件だと!?」

ヒヨコは精一杯渋い声を出して、クールなデカ長を演出しながら応答している。皆も立ち上がって電話の様子を窺っている。そして通話が終ると立ち上がって皆に伝えた。

「野郎ども!事件だ!!現場は町外れの丘のアビ屋敷。ガイシャは頭部を強打して即死。ホシはとんでもない勢いで白い粉を撒布しながら海岸の方向に逃走している」

刑事課のメンバーはみんな立ったまま熱心に聞いている。

「シューとキリンは現場に急行だ。カッパはスケジュール通り事情聴取を終えたら待機していてくれたまえ!」

ヒヨコは精一杯渋い声を出し続けたので、デスクの鈴・・・おおっとタイプミス、水を一気に飲み干してやっと息をついた。

「ッス!行ってきます、デカ長!!」

「ラジャー、デカ長!!」

シューとキリンはそれぞれ上着を掴んだ。

「私は取調室に行ってきますかね・・・」

カッパも一番上のファイルを小脇に抱える。

「うん。僕はここで事件解決をお祈りしてるからね(注:天使の声のヒヨコ)」

こうして皆今日の任務に取りかかった。

 

 

現場に辿り着いたシューとキリンは、細かい調査を鑑識に任せ、役割分担を決めた。

「キリン。君はホシを追ってくれ。俺は犯行の状況について検分する」

「わかったぜ、アニキ!ちょいと行ってくらぁ!!!」

そう叫ぶが早いか、キリンは背負っていた大きな網の柄をつかんで、振り回しながら猛スピードで海岸の方へと走っていった。

「さてと」

シューはまず被害者の状況から観察を始めた。

顔は中年のオッサンで、目は大きめ。細かくカールされた髪型が特徴的だ。体はどう見ても緑色の植物。体長は80センチってとこだろう。

続いて持ち物をチェックする。しかし、洋服を着ているわけでもないので、所持しているのは明らかに右側の葉っぱの先につかんでいる手紙だけだ。

シューは白い手袋をはめると、宛先を検めた。

8番目のプラント様?」

一体何番目まであるのか。

封筒を裏返して見るが、差出人の名前は記されていない。封筒にはこれ以上新たな情報はなさそうだと判断し、今度は中に1枚だけ入っている若草色の紙切れをペロンと取り出した。若草色にあわせて濃い緑色の罫線が引かれた何の変哲もない一筆書きには、中央に「アビ屋敷で待つ」の短い言葉しか見当たらない。

「死体は回収しちゃってください」

そばにいた警官に声をかけると、早速タンカを取りに小走りで出ていった。

「あの・・・」

そのタイミングで話しかけてきたのは、どうやら第一報を受けた交番勤務のクロウ巡査。アビ屋敷にいた通報者のもとに一番に駆けつけ、すでに簡単な事情聴取を終えていた。

「犯行現場を目撃していたそうです。話しますか?」

「もちろんだよ、クロウ君!」

 

その頃、キリンは海岸に辿り着いていた。

ホシの足取りを追うのは簡単だった。なにせホシは白い粉を撒き散らして逃走しているのだから、その粉をたどってくればいいだけだ。

「はっきり痕跡を残しやがって。アホな野郎だな!」

ルンルン気分で、ところどころシロクマのジェンガのステップを踏みながら行き着いたところは、波打ち際だった・・・。

「ちっ!痕跡を消しやがったな。そこそこ頭のキレるヤツってことか!?」

キリンの頭はそれとはちょっと違う意味でキレている。

舌打ちをしながら周囲を見渡したが、人っ子一人見当たらない。それどころか、砂浜にもかかわらず、(キリンのものを除いて)足跡すら見つからない。

もう一度舌打ちしてから沈みゆく夕日を見つめようとしたとき、水面を漂うワカメのような物体が波に揺られていることに気が付いた。

「ややっ!なんだありゃ」

キリンは網の柄の端っこを持ってギリギリまで長くなるようにして、その物体に網を伸ばした。

 

シューが事情聴取を終えたとき、アビ屋敷の丘は夕日に照らされて真っ赤に染まっていた。

目撃者は、被害者とそっくりの顔をしていた。その名もプラント。名乗ったあと「私2番目なんです・・・」と恥ずかしげに、顔を赤くしながら耳打ちされたときは、一瞬背筋がゾッとした。

そいつの証言によると以下の通りだ。

朝いつものようにプラント(2番)が布団を干していると、プラント(8番)が手紙を携えてやってきた。差出人がわからず不審がっていたという。とりあえずキッチンに行ってお茶を入れてこようとリビングをあとにした直後、ガラスの割れる音がして慌てて引き返した。そして、窓がガラスが破られ、高速回転で室内を数回巡回してからプラント(8番)に激突する新手のプラントを目の当たりにしたのだ。恐怖のあまりその場で硬直してしまったプラント(2番)は、そのまま回転しながら自分で開けた窓ガラスの穴を通って外に出て、丘から海岸までの4444Kmもの一本道を逃走していくホシを見届けた後、緊張が解けて意識を失った。昼過ぎに意識を取り戻したプラント(2番)は急いで丘の麓の『アビ近所交番』に駆け込んだ。

「あれは・・・あれは絶対にプラント(28番)です!!!」

シューはホシの名前を手に入れた!!!

 

シューは重要参考人であるプラント(2)を後部座席に乗せ、出発しようとしていた。そのとき、4444kmの往復を終えたキリンが、網を掲げて現れた。

1648分、ホシを確保しました!」

現在時刻は1724分。脅威のスピードだ。

「よくやったキリン。さすがオマエだな!」

シューはキリンとホシを積み込むと、道草署へと車を走らせた。

「被疑者死亡か・・・ヤマさんの出番はなかったな」

署へと急ぎながらそう呟いたが、このヤマはそんな簡単なものではなかったのである。

 

続く・・・

 

 

 

 

 

・・・・・・。

あたしは汗をびっしょりかいて目が覚めた。

「変な夢見ちゃったな・・・」

これは何かよくないことの前兆かもしれない。

時刻はまだ午前3時前だが、今日はこのまま早く起きて、精霊様に祈祷をしておいた方が良さそうだ。

額の汗をぬぐうと、もぞもぞと布団から這い出した。

 

END

道草署のライトな一日